アナイサ・ピーイェイ/Anaisa Pye
アナイサ・ピーイェイ（Anaisa Pye）は、21ディビジョン（ドミニカ・ブードゥーの別名）の中でもきわめて人気の高いロアである。アナイサは、聖母マリアの母親である聖アンナと重ねて考えられることが多い。彼女はメトレサ（ミストレス、つまり女性のロアのこと）であり、メトレサ・ディビジョンの代表格だと言われることもある。女性のロアの中で最も人気のあるロアだ。彼女は、聖アンナと共に聖書を学ぶ娘のマリアと関連づけて語られることもある。
アナイサは愛と金、幸運、幸福の精霊だ。彼女は人生におけるあらゆる善きものを象徴しており、こうした贈り物を子供たちに惜しみなく与えるのが大好きだ。彼女はとても浮気性で艶めかしく、多くの男性のロアと関係を持つことで知られている。とても親しみやすい存在だが、娼婦だと考えるのは大きな間違いである（大半の人はこう考えているようだが）。彼女はダンスやパーティーなど、楽しい時間を過ごすことが好きなだけ。アナイサは生きる歓びそのものなのだ。
アナイサの祝日は聖アンナの祝日と同じ７月26日であり、彼女に仕える者は皆この善き日にパーティーを開くか、彼女に仕える。この日にはパロの太鼓が叩かれるか、パロの音楽が彼女を祝して演奏される。お気に入りの捧げ物を供えられ、祝祭に招かれれば、アナイサは喜んで加わってくれる。
アナイサが、大天使聖ミカエルと重ねて見られているロアのビライ（Belie）と結婚しているかどうかについては論争が絶えない。ある人はそうだと言い、ある人はそうではないと言い、またある人はどちらでもよいと言う。それでも、アナイサの祭壇はいつもビライの祭壇と並べられている。彼らはいつも併せて仕えられているのだ。
アナイサが我々のもとを訪れるときは、お気に入りの黄色のフラ（ムシュワまたはハンカチのような布）を頭に乗せていることが多い。アナイサが着るためのスカートとブラウスが用意されている家では、これに着替えてくれる。そして、手のひらに乗せた「鏡」を覗き込む。その不思議な鏡を見ながら口紅を塗ったり、化粧をしたり（その家で用意されていれば）、香水を頭のてっぺんから足のつま先まで振りかけたり、今度は足のつま先から頭のてっぺんまでもう一度振りかけたりする。また、宝石が用意されていれば身に着けるし、馬が用意されていれば乗ってくれる。タバコが用意されていればそれに火をつけ、彼女のための特別なグラスに温かいビールが注がれていればそれを飲む。そしてビールを飲み、タバコを吸いながら、その場にいる人々の一人ずつ挨拶する。これでようやく彼女に相談する準備が整ったというわけだ。
アナイサはいつも自分のやりたいように振る舞う。非常に甘ったれた性格である。皆が彼女を崇めるため、それをスポンジのように吸収するのだ。彼女は人生のあらゆることについて、親身になってくれる。アナイサに話しかける人々は、魅力的な女性や親友に対するような口の利き方をする。彼女は多くの能力を持っているが、たいていは幸運や金、愛について相談される。
アナイサは、果物のスイカを使って金運の向上を狙う特別なワンガ（魔術）が使える。また、アナイサに仕える者の多くは苦境に陥ると、それはアナイサに仕えることを怠ったせいだと考える。金銭や恋愛に関するトラブルを起こすことで、気の緩んだ者たちを罰するというわけだ。アナイサに仕える者たちが人生のこうした場面で問題を起こすことはきわめて稀であり、たいていはアナイサがよほど腹に据えかねるときだけである。
彼女はどんなときでも注目を集めたがる。そのため、自分に仕える者がほかの者を優先させるなどということを許さない。彼女と仲が良いメトレサは、私の知る限りルバナ（Lubana）だけである。しかし誤解しないでほしいのだが、彼女たちは親友といった類のものではない。必要があるときにだけ、お互いを許容し合い、協力して問題を解決していくといった関係だ。
アナイサは香水を愛し、司ることでも知られている。これまでに数多の香水が彼女のもとで作られ、問題を解決するために使われてきた。とくに彼女の助けを借りるために調合された香水がいくつかあり、そのほかにも必要に応じて彼女がその人のために調合することもある。アナイサは金や愛情、幸運など、その人に必要なものを引き寄せるために香水を調合してくれるのだ。
アナイサに仕えるときは、ビールやタバコ、良質な香水、女性らしい香りのパウダー、宝石、黄色いバラ、黄色いキャンドル、甘い食べ物、聖アンナの絵などを供えれば完璧である。